ノラ猫
 
「だからお前は、ここにいればいい。
 そうすれば、俺が一生可愛がってやるよ。

 大事な玩具として」


大事な……玩具。
それだけで、あたしの存在価値は十分なんじゃないだろうか……。



「おい、悟。支度できたのか」



開けられたままのドアの先から聞こえた、冷淡の声。

目線を向けると、あたしを連れ去った張本人がいる。


「今行く」
「遅れるな。相手先に失礼だぞ」
「はいはい」


その人、おじさんはそれだけ言うと、あたしのことなんて一切見ずに階段を下りて行った。


「悪いけど、今から親父の会社の会合なんだわ」


にいさんは、髪を掴んでいた手をパッと離して、めんどくさそうに息を吐く。

少なからず、ほっとしている自分がいた。


今からこの人が会合というものに行くのなら
もしかしたら逃げ出すチャンスかも……。


「鍵、ちゃんと外からかけとくから安心しな」


だけどそれすらも見破られているようで、にいさんは満面の笑みを添えた。
 
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