じゃあなんでキスしたんですか?

 
傍らを、着飾った女の人が通り過ぎていく。
 
エスカレーターに揺られながら婦人服のフロアを見渡せば、華やかな装いの女の子たちが蝶の羽を付け替えるようにあちこちを舞っている。
 
このなかのどれだけの人間が、全力の恋をしているのだろう。
 
手すりにもたれて、きらきらと輝いて見える彼女たちを、そっと眺める。
 
もう永遠に立ち直れないような深い底から、懸命に這い出して、新しい恋をはじめている子もいるのだろうか。
 
黒く焦げ付いてしまったわたしの心も、いつか再生するのだろうか。
 
ぼんやりと行き交う人を見やりながら、わたしは約束の二十分前にケーキ屋のあるフロアにたどりついた。
 
考えれば考えるほど思考の迷宮にはまってしまい、出口が遠ざかっていくような気がする。
 
今日はもう何も考えずに、甘いものと可愛い妹の微笑に癒されよう。
 
そう思いながら前方に目を向けて、わたしは立ち止まった。とっさにベンチ脇の観葉植物の陰に隠れる。
 
ひと目を引くきれいな立ち姿に、呼吸が止まる。

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