じゃあなんでキスしたんですか?

 
あわてて振り向くと、彼はわたしに断ることなく勝手にプルトップを開け口に運んだ。

「きゃーっ、ちょ、桐谷さん」

「女ならミルクティーとか選んどけよ」

「そうやって勝手な女子観押し付けるのやめてくださいよ」

「ん」と返されたコーヒーをひったくる。

「ああもう、ひとの勝手に飲むとか」
 
憤りながら改めて見ると、桐谷さんは髪の毛から滴り落ちるくらい汗に濡れていた。

「だ、大丈夫ですか? プールに落ちたみたいになってますけど」

「あっつくて死ぬわ。夏の営業は鬼だな」
 
外回りから帰ってきたところなのか、ジャケットを腕に抱えたまま、彼は心底嫌そうな顔をする。

「つーわけだから今夜飲み行くぞ」

「なにがどういうわけなんですか!」

「うるせーな。飲み負かされたままじゃ男が廃るんだよ。勝負しろ」

「嫌です」

「ああくそ、この俺が誘ってんだからおとなしくうなずいとけよ」
 
もうわけが分からない。こんな調子でここ二か月間、会社で顔を合わせるたびに飲みに誘われるのだ。

「別にわたしにこだわる必要ないじゃないですか。桐谷さんのお誘い待ってる人はほかにたくさんいるんでしょう?」

「ああそうだよ! みんな順番待ちしてらぁ」
 
舌打ちをこぼし、ずいっと身を寄せてくる。エースの迫力におもわず一歩引くと、背中に自動販売機の冷えた表面が触れた。

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