㈱恋人屋 TWICE!
「恋人師って…いい仕事ですよね。色んな人と出会えて、色んなことを経験できて。」

龍馬さんが、昔とおよそ正反対のことを言っている。私はそれに少し驚きつつも、話の続きを待った。

「こんなにいい仕事なら…彼女に、させてあげたらよかったです…。」
「…なれなかったんですか、その彼女さん?」
「ええ。夢が叶わないまま、事故で…。」

踏み込んじゃいけない。

そう分かっていても、今回だけは話を聞いておきたい。

私以外の恋人師志望の人のことを、少しでも知っておきたい。

…最後の日を、充実させる…。

「…亡くなられたんですか…。」
「丁度、恋人師になるための試験の日でした。」

何かをこらえるように、龍馬さんは淡々と続けた。

「試験対策にケータイで調べ物をしながら歩いていた所、トラックにはねられたそうです。ケータイには、恋人師になるためのテクニックなどのさまざまな対策がメモされていたらしく、財布には『絶対合格』と書かれた紙が入っていたと、警察の方がおっしゃっていました。…丁度、この辺りです。ほら、あそこ。」

龍馬さんが指さすその先には、電柱のそばに花が手向けられた交差点があった。よく通るのだが、今までそんなものがあったなんて、気づきすらしなかった。

「…手を合わせなくても、いいんですか?」
「ええ。そういうのされるの、あまり好きじゃないと思うので。」

龍馬さんはベンチから立ち上がり、二、三歩歩くと、私の方を振り返った。

「どうしたんですか?」

龍馬さんは平静を装っているけど…本当は無理しているのを、私は知っている。
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