㈱恋人屋 TWICE!
「…もう、頑張らないで下さい。」
「え?」
「頑張って辛い過去を振り切ろうとするなんて…そんなの、涙の数が増えるだけです。」

龍馬さんと私は、どこかで重なっているように感じられた。いや、繋がっている、というべきだろうか。

龍馬さんの苦難の上に、今の私がいる。そしてその私が今、龍馬さんと同じように、苦難を強いられている。

「…私も、大切な人を失いました。」

話している途中で体中がえぐられるような感覚に陥ったが、それでも私は、母を失った経緯を龍馬さんに説明した。龍馬さんと同じように、あえて淡々と。涙というものは一度出たら、梅雨のようになかなか止まない。

「だから私、決めたんです。忘れるために、振り切るためになんか、頑張らないって。」
「十分頑張ってるじゃないですか、紗姫さんだって。」
「頑張りはしてます。ただ、私の場合は、そういうのと向き合うために、頑張ってるんです。」

言葉がうまく選べず、途切れ途切れになってしまった。

「向き合って、例え私の中でだけでも解決して、それで初めて忘れるんです。そうじゃないと、その経験の意味がなくなっちゃうような気がするんです。」
「…そんな難しいことばかり考えてると、難しい顔になってしまいますよ?」

ベンチの前に戻って来た龍馬さんは、私の顔をしゃがんで見た。その顔が仏が具現化したようなそれに見えたのは、きっと必然だったんだろう。

「…すみません、こんな話してしまって…。」

泣いたらなかなか泣きやむことができないから、泣かないようにしよう。そう心に決めたはずなのに、気がつけば滴が一滴、公園の砂に染み込んで消えた。
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