㈱恋人屋 TWICE!
「着きましたよ。」

車が止まる。

「すみません、わざわざ。」
「いえ。これくらい、お安いご用ですよ。」
「ありがとうございます!」

私が降りると、車は街に消えた。

「…急がないと…!」

ついに、あの結婚詐欺師が本性をむき出しにした。

鯉ヶ島匠。二十七歳の時に選挙で初当選し、衆議院議員に。結婚詐欺で稼いだ金を使いトップ層まで上り詰め、残った金で警察内部にパイプを持った。恋人師が資格化した際に議員を辞め、恋人師業界のトップである恋人屋の社長となった。

議員時代から「邪魔をする者は斬る」という思想が強く、それは恋人屋社長となっても変わらなかった。そして一度逮捕された後も、警察内部とのパイプで無罪放免となり、自分と思想の異なる前社長を自殺に追い込み、社長として返り咲いた。

けれどもただ一人、いや、二人、まだ処せられずに逃げている「逃亡者」がいる。

一人は、新海菜月。彼はもう一人の「逃亡者」と結託し、鯉ヶ島の悪事を悪事として、白日の下にさらそうとしている。

そしてもう一人の「逃亡者」は…私、新海紗姫。

自分を逮捕にまで追い込んだ私に、鯉ヶ島は強い憎悪を抱いていた。実の娘でありながら親に全面戦争をしかけているのも、不服でならないようだ。

「…早く…!」

なかなかエレベーターが降りてこない。…止められている?

待っているのがじれったくなったのか、エレベーターが止まっていると思ったのか。どちらにせよその場に突っ立っていられなくなった私は、階段を駆け上がった。
< 116 / 130 >

この作品をシェア

pagetop