そこにいる
僕も、今は菜都をなんとかしてあげたい気持ちでイッパイだった。

僕なりに、ゲームに参加させられそうな人を考えてみたが、どんなに緊急事態でも、自分の親兄弟を参加させる気にだけはなれなかった。

菜都の親はもう亡くなっているし、それを知っている親戚はこの話しに乗ってくるワケがない。


結局僕たちは、善人であろうと悪人であろうと関係なく、ゲームに誰かを参加させる事など出来ないでいた。

でも、僕はこれこそが本当の善人の答えなんじゃないかと思っていた。


自分だけが助かればいいって事じゃなく、自分の周りの大切な人を守る為にも・・・


ただ、菜都も助けたい。

時間は刻一刻と迫って来る。

僕らは何も出来ないまま、間もなく午前0時を迎えようとしていた。

菜都の首筋の『偽善者の烙印』は、かなり濃くなっていた。


---プッッ・・・


コンセントを抜いているテレビが突然点いた。

菜都は怯えながら、ベッドの隅に身体をよじらせた。



「間もなく午前0時を迎えます。

・・・午前0時を過ぎた時点で『負け』が確定なさる方に、朗報をお持ち致しました。」


黒い帽子で顔が全く見えない男は、淡々と続けた。


「ここで、一発逆転のチャンスです。

私の出す質問に答えられましたら、ゲームをクリアする事が出来ます。

即ち『勝者』になるという事です。」


菜都は、額を汗でビッショリにしながらも、テレビの画面に集中した。

僕もシンも、画面を見ながら立ち上がり、菜都をかばうような体勢をとった。

もう一つ、僕は先輩の下宿先からの帰り、コンビニで耳栓も手に入れていた。

小坂先輩の言う通りなら、耳から周波数が入らなければ、助かるかもしれない・・・

最悪の事態に、僕は逃れる方法をなんとか捻り出していた。

テレビの男は続けた。


「これは、あるモノからの質問です。

一度しか言いませんからよく聞いてくださいね。」


僕たち3人の背中に緊張が走る。



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