君の名を呼んで
「まったく、そういうとこまで父親譲りね」

彼女の言葉に、私はえ?と二人を交互に見て。
お父様は私の視線に、コホンと咳払いする。

「妻は、私の幼なじみでね。まあ、初恋の相手でもあるな」

「だからこの人がフラフラ遊び歩いても、離れられないのよ。最後には私のところに帰ってくるんだから」

なんだかすごい話だなあ……。

皇も初耳だったのか、目を見開いて両親のカミングアウトを聞く。


「家族がバラバラになったって、最後には良いことがあるって、思いたかったの。もう意地になっちゃってたんだけど。ごめんなさいね、あなた達の仕事を侮辱したわけではないのよ。
帝にも同じようなこと言って、さんざん嫌われたわ」

負け惜しみかしらね、と彼女は私の顔を見つめる。


「……わかってると思うけど、私はいい母親じゃなかったわ。息子を失うのに耐えられなくて、皇にひどいことをしたの。皇紀の身代わりをさせて、縛り付けた。

でもこれでも、皇のことだってちゃんと愛してるのよ」

「わかります」


そうじゃなきゃ、こんな広い家に一人、家族の帰りを待ったりしない。
便利なだけなら、綺麗なだけなら、都心にもこの付近にも近代的で便利なマンションとかはいくらでもある。
豪華なこの家は、管理するのも大変だと思う。
それでも、彼女はここに一人でいるんだから。

幸せだった頃のかたちにしがみついているっていえば、それまでだけど。
母をみていた私には、なんとなくわかる。

女としての、母としての、彼女の強さと弱さ。

私も皇に逢って、得たものなんだ。
それにこれから、得るであろうもの。

ずっと皇の隣で、彼と生きていきたいから。


皇のお母様は、安堵したように息を吐いた。

「皇を支えてくれてありがとう。息子を宜しくお願いしますね、雪姫さん」

妻の言葉に、皇のお父様も頷いて微笑む。
私は皇を見上げた。

「……はい」

皇はひどく、嬉しそうに私を見ていて。
雪姫、と囁く唇が、私の心を温かくする。


ねぇ、皇。


あなたを、愛してる。
< 255 / 282 >

この作品をシェア

pagetop