君の名を呼んで
「やだ、なんなんですかもう!!」

私は動揺のあまりもう涙目になって、頬が熱くなる。今多分、顔真っ赤だ。
彼の舌が、ペロリと私の指を舐めた。

「ぎゃああああ!!」

「……お前、色気ないな」

アナタが垂れ流しっぱなしすぎるんです!
これ新手の拷問なの?

私はもうぐったりと呟いた。

「……名前を呼ばれても、舞華さんには怒らないんですね」

絶対からかわれるって覚悟して言ったら、案の定副社長はニヤリと笑った。

「ヤキモチか」

だから言うの嫌なのよ~!

「そう、です」

けれど素直にそう言えば、城ノ内副社長は少し驚いたように私を見て、ふ、と表情をゆるめた。

「そりゃ子供のころから知ってる相手だからな。妹みたいなもんだし、今更名字で呼べとは言えねぇだろ」


その言葉に、なんだかモヤッとした。

どこまでも、彼女は特別なんだと、そう言われた気がした。
城ノ内副社長にとってはそれが妹に対するものでも……きっと舞華さんは彼のことが好きだ。

副社長だって、初恋の人なら舞華さんを……。

ああキリがない。
私こんなに嫉妬深かったっけ?


「そう、ですよね」


手に入らないと諦めていたものが手に入って、生まれた執着心。
自分の浅ましさに、嫌気が差す。


ズキン、とまた一つ、胃の痛みが増した。
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