君の名を呼んで
それからというもの。
売り出すという言葉通り、なにかと現場で舞華さんに会うことが多くなった。


「今日も一緒だ……」

朔についてテレビ局に来ていた私が見たのは、彼女の名前。

彼女が悪いわけじゃない。
でもなんか気分が暗澹としてくる。
だってね?


「梶原さんて皇の彼女なんですってね?なんだか意外~」

それは私が彼に似合わないと言いたいのかしら。

「大変ね。皇って他人には意地悪でしょ?あ、でも梶原さんには優しいの?」

いえいえ、私にももれなく意地悪です。
というかそれは『私は他人じゃないから』の含みありますか。

「私、子供の頃の夢は“皇のお嫁さん”だったの」

……。

私は目の前で喋り続ける舞華さんに、手を挙げて質問する。

「あの~これって嫌がらせですかね?もしそうなら、わかりにくいんでハッキリ言って下さいね」

そう言って舞華さんを見たら、彼女は突然形相を変えた。
その綺麗な顔で私を睨みつける。ほらあ、本音でたあ。


「随分余裕なのね。バカにしてるの?」

「舞華さん、育ちが良いでしょう。この業界でそんな程度の嫌みじゃ通じませんよ?タレント潰しとか本当にスッゴいんですから。私もっとえげつない嫌がらせ、たくさん受けてるし」

私の言葉に、舞華さんは鼻を鳴らした。

「なあにそれ。あなたマネージャーでしょ?まるで自分が受けてきたみたい」

「……タレントとマネージャーは一心同体です」

私の言葉に、舞華さんは開き直ったのか。

「とにかく皇は渡さないわよ。見てなさい」

なんて宣戦布告して去っていった。

可憐で儚げな白雪姫はどこへ?
さすが城ノ内副社長の幼なじみだ。


「ねぇ今のコント?随分面白いやりとりだったけど」

収録を終えてきた朔が、クスクス笑いながら聞いてくる。
いつから見てたんだか。

「……胃が痛い」

私はふぅ、と溜め息をついた。
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