冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
きっと、無理矢理連れ戻した父さんが変わりゆく姿に打ちのめされ、身内を後継者に据えるという考えを変えざるを得なくなったからだろうけれど。
そんな考えを持つおじい様のおかげで、私が会社を引き継ぐ話はグレーなまま、もしかしたら会社で優秀な実績をあげている社員が私と結婚し、サプライズ出世するのではないかとも噂されていた。
現に、私と年齢が近い若手社員とお見合いらしきものを何度かさせられて、
『もしもいい人がいれば、どうだ?』
出会いの場を作られたりもしたけれど、実際に『いい人』に巡り合う事はなかった。
確かに、優秀で、人柄にも問題がなく、会社の為になるだろう男性はいたにはいたけれど、それでも結婚したいと思える人はいなかった。
結婚に対して大きな夢を抱いているわけではないけれど、それでも結婚に必要なものの幾つかを得たいと、思っていた。
まずは、やはり、愛情だ。
お互いを唯一の人だと思えるほどの愛情を感じる人でなければ結婚したくないと、それだけは頑なに思っていた。
そう、それが自分勝手でも、わがままでも、周囲から白い目で見られようとも。
えこひいきでもいいから、私一人を愛してくれる人に側にいて欲しい。
私が何をしても、何を言ってもその愛情の強さがぶれることのない、そんな人が欲しい。
だから、結婚相手は簡単には決められないし、家柄に基づく政略結婚だとしても、その向こう側に愛情がなければ長くは続けられない。
生涯をともにする覚悟の裏付けとして、愛し愛され、そしてその事によってもたらされる幸せを独占できる喜び。
それがなければ、私がこれまで寂しさに耐えながら生きてきたことの意味がなくなってしまう。