冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
愛し合う両親から愛され、幸せを享受していた幼少期の思い出に縛られているのかもしれない。
けれど、お互いを見つめ合っていた両親の優しい眼差しを忘れられない自分の気持ちを大切にしたい。
会社という巨大なものにのみこまれて離婚してしまった両親の切なさや弱さをも含めて、私は愛する人と結婚して幸せな家庭を築きたいと思っている。
愛する人に愛されて、そして一生を添い遂げる。
そんな結婚をしたいと、それだけを願ってきた。
けれど。
運命は意地悪だ。
結婚した相手は、私を大切にしてくれるけれど、私を愛してはいない。
優しい言葉をかけてくれるけれど、それでも私を愛してはいない。
私一人が彼に惹かれ、気持ちをぐっと掴まれてしまった。
相手に片思いをしたままの結婚なんて望んでいなかったのに、それでも私は彼から離れられないほど好きになってしまった。
強気で自信に満ちた、そしてどこか意地悪な、そんな人を愛してしまった。
既に、戸籍上では夫となった彼に片思い。
「紬……」
そう呟いても、愛情を返してはもらえないのに。
愛されることを待ちながら、結婚してしまった。
「紬、紬……」
何度もそう呟いた。