冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



「瑠依、瑠依っ」

どこか遠くから、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

その声に胸はざわざわと揺れ、それを心から求めていたと気づき悲しくなる。

「瑠依、どうした? 何かあったのか?」

……私の体を包む温かさに、夢うつつの中にあった意識が、少しずつ覚醒していく。

「瑠依? どうした、泣いているのか?」

まるで私を愛しているかのような優しい声が聞こえるけれど、それはきっと、そんな感情を求めてやまない私が作り出した幻聴に違いない。

「瑠依、どうしたんだ?」

紬さんの声に似ている、温かい声に引き戻されるように、私は瞳を開いた。

そして、目の前にある彼の顔に、まだ私は夢を見ているのかとぼんやり思いながらも、それが嬉しくて。

「紬さん……紬……」

呟きながら、ゆっくりと手を上げて紬さんの頬を撫でた。

心配そうに私を見つめる瞳は私の手を拒むことなく、それどころか、私の手を掴み、ぎゅっと自分の顔に押し付けて。

私の手のひらにキスを繰り返していた。

「どこか痛むのか? それとも、体調が悪いのか?」

ほんの少し震えているようなその声は、私の体を心配し、不安げに私の答えを待っている。

間近に見る整った顔は、仕事で疲れているのか一回り小さくなったようだ。






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