キスはワインセラーに隠れて


「……環、“あの人”って?」

「あ、ううん、こっちのこと! ……やっぱ本田はイイ奴だよな。俺も、本田のいない職場で働くの絶対嫌だもん!」


そう言って本田に微笑みかけると、急にぱっと後ろを向いてしまった彼は、一人でぶつぶつ何か呟いていた。


「……本田?」

「あーいや、気にすんな。ちょっと自分自身と戦ってただけだから!」


振り向いた本田は、なぜか自分の頬に平手打ちをくらわす。


「なにしてんの?」

「……お前は男。俺も男。この気持ちは熱い友情。ただ、それだけ。よし」


意味不明なことを自分に言い聞かせるように呟いた本田に首を傾げていると、ガチャリと更衣室の扉が開いた。

そして姿を見せたのは、今日はこうして顔を合わせるのをなんとなく避けてしまっていた、病み上がりの俺様ソムリエ。


「……環、まだ帰ってなかったか。話したいことがあるから、このあとコーヒー一杯付き合え」

「…………はい」


……ああ、ゆっくり本田と話してるんじゃなかった。

逃げてもしょうがないことだけど、まだ藤原さん本人に、さっき本田に投げかけた質問と同じことを聞く勇気はないよ……


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