キスはワインセラーに隠れて


キッと睨むような視線を送ると、藤原さんはため息とあくびが混じったように、大きく息を吐き出して言う。


「別に俺は、お前を喜ばせようと思ってあんなこと言ったわけじゃない。だから、お前の考えてることはお門違いだ」

「……っ。じゃあ、なんで……っ!」

「……朝から大きな声出すな、頭に響く」


藤原さんは面倒臭そうにそう言うと、私の腕を引っ張ってベッドの方まで連れて行き、乱暴に押し倒した。

そして、私の上に覆い被さった彼の口から出た言葉は。



「……お前は、黙って俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ」



――プツッ……っと、私の中で何かが切れた。

なにそれ……

こうやって迫れば、いつも私が藤原さんの言いなりになるとでも思ってるの?


「見損ないました……っ」


“俺様”――だなんて生易しい言葉じゃ片づけられない彼の行動に心底頭にきた私は、右手を振りかざして彼の頬をはたいた。

パシン、と乾いた音が静かな部屋に響き渡り、ふいをつかれたような顔で自分の頬を押さえる藤原さんの体を押しのけ、私はベッドから降りる。


「……待てよ、環」

「待ちません! 私、先に仕事行きますから!」


リビングに移動すると自分の私物を押し込むようにバッグにしまい込み、私は逃げるように藤原さんのマンションをあとにした。


どうせレストランでまた顔を合わせることにはなるけど、仕事のこと以外では彼を無視しよう。

自分がどれだけひどいこと言ったかわかるまで、絶対に口をきかないんだから……


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