キスはワインセラーに隠れて


「でも、俺がこっちの店に来ることにした、最大の理由は――」


そこまで言うと、ワイングラスをコト、とテーブルに置いた藤原さん。

首を傾げながら次の言葉を待つと、真摯な瞳をした彼が言う。



「――お前を、守るため」



ドキン、と跳ねあがった私の心臓。どぎまぎしながら彼を見つめると、藤原さんは穏やかな調子でこう続けた。


「変な奴が近づいて来たらすぐに言え。俺が撃退してやるから」

「藤原さん……」


それから私たちが見つめ合っていると、酔っぱらったスタッフたちが冷やかしにやってきて、甘い雰囲気はぶち壊し。

だけど、みんな私が男だと偽って働いていた頃と同じように接してくれて、私にはそれがすごく嬉しかった。


一度はみんなと離れることを覚悟したけど、そうならなくて本当によかった。

それに今度からは、ちゃんと女の庄野環として働ける。

その喜びをを噛みしめながら、須賀さんと調理スタッフたちが作ったと言う料理を食べて、藤原さんの選んだワインを飲んで。


そんな楽しい時間が、夜遅くまで続いた。


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