キスはワインセラーに隠れて


だ、誰と……?

そんなの、このメンバーを見ればすぐにわかるじゃない!


「香澄さんです!」


高らかに宣言した私だけど、何故かみんな私のことを変な目で見てくる。

な、なに……?


「環。お前オーナーの前で告白するとか勇気あるな」

「え?」


隣の本田が言う“告白”と“勇気”の意味が分からず怪訝な顔をする私に、今度は須賀さんが低い声で告げる。


「……不倫」


ふ、ふりん……?

ああそっか! 私今、男なんだった!

それで香澄さんと一緒の部屋がいいって、なんてアブナイ発言しちゃったの私!


助けを求めるように一番前の二人の方をみやると、オーナー夫妻はそろって前を向いたまま、肩を震わせていた。

ちょっと! 笑ってないで助けてください!



「……ありがと環クン。でもゴメンね?私、ダンナ一筋だからさ」



先に振り向いてくれた香澄さんが、そう言ってオーナーの肩を叩く。

するとまだ笑いの余韻で目の端に涙の浮かんだオーナーが、着ているシャツの胸ポケットからボールペンを引き抜いて私たちの方へ差し出した。


「アミダでも作って決めればいいんじゃないかな。それならみんな文句ないだろ?」


アミダクジか……確かに平等ではあるけど。

結局私、誰と一緒の部屋になりたいんだろ……?

本田? 須賀さん? 藤原さん?


彼らを一度ずつ見てハッキリ言えることはひとつ。

やっぱり、香澄さんがいい……。ってことだけだ。


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