キスはワインセラーに隠れて
その日は勤務時間が終わるまで藤原さんを避け続け、あれ以上彼と話すことなく家に帰ることに成功した私だったけれど。
ご飯を食べても、シャワーを浴びても、ベッドに入って眠ろうとしてみても……唇に残るキスの感触は、なかなか消えてくれなかった。
「あんなにいっぱい、するんだもん……」
なかなか寝付けない私は、ベッドの上に横たわりながら、自分の手でそっと唇に触れてみる。
ここに、藤原さんのクチビルが……
そう考えただけで沸騰したみたいに身体が熱くなって、思わずごろんと寝返りを打つ。
視線の先にある、キッチン脇の棚の上には、藤原さんにもらった、未開封のワインのボトル。
あのワイン……余計に飲みづらくなっちゃった。
明日も仕事なのに、どんな顔して会えばいいんだろう。
そして……私はいつ、クビになるんだろう。
「はぁ……」
吐き出したため息の成分は、仕事への不安半分、藤原さんへのくすぶる想いが半分。
最初は“恋愛禁止”の条件なんて軽々クリアできると思ったのに、オーナーの言った通り、あのお店にはくせ者が多すぎたみたい……
私がウエイターでいられる期間は、おそらくあとほんの少しだけ。
もう、成り行きに任せるしかないよね……
そんな投げやりな気持ちのままぎゅっと目を閉じ、私は無理矢理に眠った。