光のもとでⅡ
 目にすれば意識せずにはいられない――そんな自分を人に見られるのは耐えられなかったし、翠本人に気づかれることも避けたかった。
 困りかねた俺は、ヘアゴムに指をかけ解いてしまった。翠は驚いた顔をしていたが、行動理由など説明ができるわけがない。そんなことを繰り返しているうちに、翠が隣に座ることも、手をつなぐことも、何もかもが受け入れられなくなっていった。
 側にいられたくないわけじゃない。でも、ふとしたときに肩や腕が触れるだけで、翠の体温をもっと感じたくなる。手をつないだだけで抱きしめたい、と欲求が膨れ上がる。
 人目がある場所では抑えることができるものの、人目がない場所では自制する自信がなかった。だから、自分を自制できる程度の距離を欲するようになった――。

 俺が感じている欲求は、ごく自然なものだろう。それをそれとして受け入れられないのは、相手がほかの誰でもない翠だから。
 こんな感情を持っていると翠に知れたら、翠は俺をどんな目で見るだろう。かつて、秋兄はそこで失敗をしている。秋兄と同じことはしたくない。そうは思っても、今持て余している感情は、あのとき秋兄が抱えていたものと同質のもの。
 キスをすればその先を望む。ならば、キスだけで、抱きしめるだけで満足していられるのはいつまでなのか――。
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