光のもとでⅡ
 これは良くない流れな気がする。
 嫌な予感をひしひしと感じ始めたとき、
「見たいです……」
 翠がポツリと答えた。
「翠葉、お願いしてごらん? きっと司は聞いてくれるから」
 何を根拠に……とは思うものの、翠の視線には耐えられる気がしない。
 こめかみを押さえ、嵐を蹴散らす方法を考えていると、
「ほら、視線を向けるだけであぁなのよ。言葉を添えればなんのその……」
 翠はゆっくりと俺の机に近づくと、かがんで机の上に顎を乗せた。
「ツカサ……見たいな。だめ……?」
 小動物を彷彿とさせる目が俺を見上げている。
 こういう上目遣いは反則だと思う。
 対峙して数秒と経たないうちに、
「どうしてもだめ……?」
 普段、翠にこんなふうにねだられることはそうそうない。
 かわいいと思ってしまった時点で俺の負けは確定していた。
 人に囲まれた状況に耐えかね、翠を連れて教室を出ようとしたら、
「ちょっと、司っっっ!?」
 慌てて声をかけてきた嵐を肩越しに振り返り、
「嵐、覚えておけよ」
 俺は団長を了承すべく言葉を残し、教室を出た。
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