光のもとでⅡ
 俺は笑いを噛み殺し、
「じゃ、日曜日の午後。日中のあたたかい時間に一、二時間散歩しよう」
「嬉しい……」
 翠は本当に嬉しそうに頬を綻ばせた。
 車の免許を取る前には白野のパレスへ紅葉を見に行こうという話もしていたが、おそらくふたりが高校生のうちは無理だろう。なら、大学生になったら行けるのか――。
 それもまだわかりはしない。
 一見して、学生は休みの融通がきく身分に思えるが、身を置く場所によって程度差が生じる。だとしたら、やっぱりそのときにならないとわからないのだろう。
 もし白野まで行くことが無理でも、近場で、藤山以外の場所へ連れて行けたらいい。
 家に帰ったら少し調べてみよう。
 そんなことを考えている隣で、翠はクスリと笑みを浮かべた。
「どうかした……?」
「ううん、なんでもない。ただ、お散歩、久しぶりだなと思って」
「あぁ、夏以来だな」
 あの日、翠の行きたい場所を追求しすぎて文句を言われたっけ……。
 しかも、あの日に聞き出した場所なんてまだひとつも行けてないし。
 翠が行きたいと言った場所をすべて行くのにどれほど時間がかかるんだか……。
 ほかに話したことといえば、秋兄に関する約束を反故にされた理由を聞かせてもらった。
 翠の告白には衝撃を受けたし戸惑いもした。不安と怒りが入り混じり、どうしたら翠を自分につなぎとめておけるのか、と様々な考えが頭をよぎった。
 でも、あれ以来翠が不安定に揺れることはないし、秋兄が絡むいさかいもない。
 秋兄が仕事場をマンションに移してからというものの、会う機会はぐっと減った。
 それでも仕事を回されることはあるし、会う機会が減っただけで関係性が希薄になったとは思わない。
 秋兄は今でも翠のことを好きなんだろうか……。
 この、「好き」という感情が受け入れられなかったとき、その感情はどう変化していくのだろう。
 少なくとも俺は、翠と秋兄が付き合い始めても諦めることはできなかったし、諦めようとも思わなかった。
 そこからするなら、秋兄も俺と同じで諦めてなどいない気がする。
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