全部、抱きしめて
ここは、体育館の出入り口付近。
いつ人が来るか見られるか。

でも直也はそんなのおかまいなしだ。
更にギュッと強く抱きしめられた。

そして、しばらくの間、沈黙があって、直也が口を開いた。

「さっきはごめんな由里子。嫌な思いさせて」

あたしは無言のままだ。
あえてそうしていた。

ここで「もういいよ」なんて言ったら、負けたような気分になるからだ。

こんな事で張り合うあたしは可愛くない女。

「機嫌直してくれない?」

「うーん。どうしようかな」

もう本気で怒っていないと感じ取ったのが、直也がクスッと笑った。

そう。
あたしの機嫌はとっくに直っていた。

おそらく、直也に抱きしめられた瞬間から。


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