恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②



「きっと、血相変えてここに飛んでくるわよ!あっはっは…!」


母親は手を叩いて楽しげに笑っていたが、真琴は途端に不安になった。

あわてて車を運転する古庄が、スピード違反で捕まったり、事故に遭ったりするのではないかと…。



「さあ、お風呂を沸かしておいたから、先に入っていらっしゃい」


気を取り直すように母親からそう言ってもらって、真琴は肩をすくめた。


「…でも、お義母さんとお食事の準備をするお約束でしたから…」


「食事の準備は、あと自然薯をすりおろすくらいだし、それをしてもらうにしても、とにかくその土を落とさないとね」


と言いながら母親は、真琴に歩み寄り、割烹着の裾を持ち上げて真琴の顔に着いた土をふき取ってくれた。

懸命に自然薯を掘る最中に、土まみれになってしまっているらしい。
さっきまで父親と対面してたのに、父親は何も言ってくれなかった…。

真琴は恥ずかしさのあまり、何も言葉が返せず、代りに顔が真っ赤になった。



「うちのお風呂、お父さんの力作。岩風呂なのよ。温泉じゃないけど、山の湧き水を沸かしてるの」


「…えっ!岩風呂?」


自分の家に岩風呂があるなんて、庶民の真琴の感覚からすると嘘みたいだった。


「と言っても、いつもは使わないんだけど、お客さんが来た時は特別なのよ。母屋に置いてるキャリーケースは持って来てあげとくから」


母親はそう言って、真琴を岩風呂に案内してくれた。
屋敷の裏手から景色が見渡せるところに、手作りらしい建物があり、脱衣所とその奥に、本物の岩風呂がある。



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