恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②

岩風呂にて…




古庄の実家に戻ってきたのは、もう夕暮れ時になってしまっていた。
奥の納屋の方には軽トラが停まっていたので、もう晶も農作業を終えて帰ってきているらしかった。



古庄も、もう真琴のアパートへと帰り着いている頃だろうか。
居間のテーブルの上に置いてきた手紙を見たら、どんなに驚くだろう…。


――…和彦さん、ごめんなさい…。


真琴は心の中で古庄に詫びながら、大空を覆い尽くす、燃えるような夕焼けを見上げた。



――和彦さんも、こんな空を見上げながらここで育ったのかな……。


そんなことを思うと、その美しさへの感動と相まって、真琴の胸がキュンと震えた。


「ああ、お帰りなさい。ついさっき、和彦から電話があったわ」


屋敷の裏手、勝手口から出てきた古庄の母親が、そう声をかけてきた。


それを聞いて、真琴の心臓がドキリと一つ大きく脈打った。
ここは電波が届かず、真琴のスマホは使えない。だから、古庄は実家に連絡を取ったのだ。


その電話で、古庄に何も言わずに来てしまったことが、母親にバレたに違いない。


「あの…、実は和彦さんには内緒でここに来てるんです。…何か言ってました?」


それを聞いて、母親はニヤリと面白そうに口元を歪ませた。


「真琴ちゃん。それ、ナイス♡和彦は『そこに真琴が無事に着いているか?』ってわめいてたけど、『真琴ちゃんなんて誰?知らないわ』って言ってやった!」



「え……?」



母親の意外な言動に、真琴の目が点になる。



< 109 / 158 >

この作品をシェア

pagetop