恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②



何でも「普通」や「人並み」や「無難」であることが幸せだと思っている賀川家の人間の感覚からすると、古庄の容貌は常軌を逸していた。



ソファーに横たわる父親の体の上に毛布を掛けて、真琴と古庄がホッと一息ついた時、


「お茶を淹れ直したわ。こっちへいらっしゃい」


と、母親からダイニングの方へ手招きされた。


「ありがとうございます。どうぞ、お構いなく」


古庄から律儀にそう言われて、母親は改めてその顔をまじまじと眺めた。


こういう視線には慣れているとはいうものの、やはり自分の義母になる人からのものは緊張する。

普段はお茶の飲み方なんて気にしたことのない古庄だったが、柄にもなく「作法」のようなものを意識して、当然その美味しさなんて味わえなかった。



真琴の母親は、上品な感じの清楚な人で、嫌味がなく上手に年を重ねている印象を受ける。

きっと真琴は、この母親を模範に成長して大人になっていったのだろうと、古庄は想像をめぐらせた。



「夢を見てるんじゃ、ないわよねぇ…。」


母親はため息を漏らしながら、つぶやいた。


「…え…?」


向かいに座る母親は、真琴と古庄から同時に見つめられた。


「ああ、ごめんなさい。古庄さんがあんまり素敵だから…」


そう言いながらひきつった笑いをした母親の中に、同じような表情をする真琴の面影を見て、古庄は自然と口角を上げた。

その優しげな顔を見て、母親の頬は一気に赤くなる。



「…や、やだ。私ったら、年甲斐もなくボーっとしちゃって…」


「お母さんだけじゃないわ。古庄先生を見ると、歳は関係なく誰でも最初はそんな感じよ」


「そうかもしれないけど…」


と、母親は思わず、テーブルに両手をついて立ち上がる。

落ち着かなげに台所を右往左往して家事をしている風だったが、何もすることが見つからず、窮して真琴と古庄に向き直った。





< 47 / 158 >

この作品をシェア

pagetop