恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②



「正志くん。君は、真琴を…君のお姉さんを、そんな人だと思っているのかい?」




柔和だった表情は真剣で厳しいものに、声色も深く重みのあるものに一変している。


「もちろん真琴は真面目だけど、それだけじゃない。思慮深く物事をしっかり捉えて、いつでも正しい答えを導き出してくれる聡明な人だ。自分のことよりも、常に相手のことを第一に考えてあげられる、優しくて深い思いやりのある人だよ」


古庄のこの言葉には、正志だけではなく、両親とも聞き入って真剣な目で古庄を見つめた。


「そして何より、そんな風に綺麗な心を映して、真琴はとても美しい人だから…、僕は真琴に出逢った瞬間、一目惚れした。寝ても覚めてもずっと想い続けて、夢中になってるのは僕の方なんだから」


正志は依然として古庄を睨みつけていたが、その視線に戸惑いが過り、その鋭さが和らいでいく。


「…解ったよ。お姉ちゃんのことを好きだってことは解ったけど!!でも、僕はまだ認めない!!『義兄さん』だなんて絶対に呼ばないからね!!」


「もう!正志!!あなたは少し自分の部屋へ行ってなさい!!」


いつまでも態度を改めない正志に、母親が業を煮やして指図した。
母親の本気の口調に、形勢の不利を見取った正志は、黙って席を立つとリビングから出て行った。


母親は恐縮して、古庄に向き直る。


「…ごめんなさいね。失礼なことばかり言って…。ワガママに育ってて、恥ずかしいわ」


「いえ、正志くんは、ワガママではなくて素直なんです。正直に自分の気持ちを言ってくれてるだけです。きっと、真琴を僕に取られたように感じているんでしょう」


「古庄さんに、そう思っていただけると救われます。さすが、先生をなさってるだけのことはあるわね」


古庄が恥ずかしそうに微笑んで応えると、母親は続けた。





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