恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②



「……真琴と正志は歳の離れた姉弟でしょう?正志にとって真琴は、もう一人の母親のようなものなんです。正志が生まれた時、真琴は中学生でしたから…。それはもう、真琴は正志の世話を焼いて可愛がって…」


話を聞いて、古庄にはその光景が目に浮かぶようだった。


真琴が生徒を見るときの思いやりは、正志の存在により培われただろうと想像をめぐらす。


「正志くんも、今の真琴を形作る重要な要素だったんですね。感謝しなきゃいけませんね」


「まあ…!お上手だこと」


正志にあれだけ罵られながら、こんな風に言ってのける古庄を、母親は頼もしそうに見て笑った。


「いえ、正志くんだけじゃありません。真琴を取り巻く全てのものに、感謝したいくらいです。僕は、真琴に出逢えて人生が変わりました。それまでは、それなりに安定して楽しく生きていければいいくらいに思っていたんですが、真琴に出逢ってからは、勤勉に地道により良く生きて、真琴と共に幸せになりたいと思うようになりました」


古庄はそこで一旦言葉を切り、母親を、それから父親を順番に見つめた。


父親は相変わらず目を合わせてくれなかったが、古庄の言葉にきちんと耳を傾けてくれていた。
母親の方は、瞳を震わせて古庄を見つめ返してくれている。



「……だから、真琴をこの世に生み出してくださったお義父さんとお義母さんには、本当に感謝しています」



そう言いながら、その念を込めて、古庄は深々と頭を下げる。


母親も目頭を押さえながらうつむき、頭を下げる。


「…真琴も、古庄さんにそんな風に想っていただけて、幸せだと思います。良い方と出逢えたと思います」


母親がそう言い終わらない内に、微かな足音が聞こえてきて、ほどなく真琴がリビングに姿を見せた。



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