裏腹な彼との恋愛設計図
「それぞれのお客さんに、親身に寄り添うことだよ」


原田さんのつぶらな瞳が、はっとしたように見開かれた。


「あの家族はどういうスタイルの家にしたいと思ってるのか。重要視するのは価格かデザインか、限られた間取りでどういう工夫をしたいのか、それぞれの家族によって求める理想は全然違う。
それをはっきり理解していないから、話した内容も忘れるし、他の家族と情報が混ざってわからなくなったりするんじゃないか?」


彼女は唇を噛みしめ、力無く俯く。自分の至らなさを認めるように。


「俺達プランナーは、そういう理想を引き出して形にするのが仕事だろ。
製品の説明はカタログがあれば出来る。でも俺達はもっと深くお客さんと繋がらなきゃいけないんだよ」


いつか鈴森が言っていたことを思い出す。

大手の住宅会社に勤めておきながら、こんな小さなとこに転職してきた理由を聞いた時のこと。


『ここの方が、もっとお客さんと濃く深く繋がれると思ったから』


そう言った通り、あいつはお客の細かいことを把握している。

あの奥さんはキッチンを広くしたいと言っていたとか、あのご主人は明るい色の家が好きだとか。

展示会や打ち合わせに来たほんの少しの時間の雑談で、マイホームの理想を上手く聞き出しているらしい。

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