裏腹な彼との恋愛設計図
「私、雰囲気でただ流されそうになったわけじゃないですから」


……こんな中途半端なことを言って、彼はどう思うだろう。

でも、これだけは伝えておきたかったんだ。


何か言いたそうにする彼に、私は「お疲れ様でした!」と言ってペこりと頭を下げると、逃げるようにアパートへ戻った。

無人のワンルームへ駆け込むと、まだ微かに彼の香りが残っていることに気付く。

ついさっき、間近で感じた彼の存在と、私をかばってくれた時の逞しい腕の感覚を思い出して、心の奥が疼く。


「もう、消せないや……」


火がついてしまったこの気持ちは、もう消すことは出来ない。


いまだに高鳴る胸を抑えるためか、難攻不落な恋の始まりに対するため息か。

私は甘い空気を吸い込んで、深く息を吐き出すのだった。




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