幼馴染みはイジワル課長
この事は誰にも話してない。両親にも歩未ちゃんにも秘密で、唯一打ち明けているのが中学からの親友の杏南(あんり)にだけ。


オフィスで碧に会うたびに自分の気持ちを抑えされなくなる…忘れよう忘れようとしていたのに…忘れなくなるんだ。






「澤村」


その時…後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、振り返るとそこには碧が!



ガシャンッ


洗っていたマグカップが思わず手から滑って落ち、私は慌てて作業を止めて水道を出して手を洗った。側にいる歩未ちゃんは、とっさにスマホをポケットにしまうと洗い物の続きをする。





「な、なんでしょう?」

「資料室から持ってきて欲しい物がある」

「はい…?何をです?」


ぎこちない私の口調…碧に敬語を使うなんて変な感じがするけど……ここは一応会社だし、碧は私の上司だし。




「教えるから来い」

「はぁ…」


給湯室を出ていく碧。私が振り返ると歩未ちゃんが「ここは私がやるから!」と言ってくれてお礼を言い小走りで碧を追いかけた。




「あ、あのっ…課長!」

「遅い」

「…すいません」


冷たい口調の碧。こんなふうに話すのは異動して来てから初めてのこと…

昔はすごく優しかったのに…碧もいつの間にか変わってしまった。会社では顔はいいけど鬼課長なんて…裏では言われているらしい。

それとも…ずっと私が避けていた事を怒ってるのかな。





ガチャ…


資料室のドアを開けると、そこは数え切れない程ファイリングされた資料が棚にきれいに並べられていた。

部屋を見渡しているとカチャン…という鍵の閉まる音が聞こえ、とっさに後ろを振り返ると碧が少し怖い顔をして私を見下ろしている。





「な、なに…?」


資料室に用があるみたいな感じで言ってたのに、実は違うのかな…




「敬語を使え」

「あ…ごめんなさい」


2人きりになったから…つい敬語を使うのを忘れたよ。


碧は資料室のドアにもたれかかると、少し面倒くさそうに口を開いた。

高そうなスーツに身を包む碧をまじまじと見ると本当にかっこよくて、ドキドキして直視できない自分がいた。





「久しぶりだな」


意外な碧のその言葉に胸が高鳴る。もしかして…ここに来たのは私と話をするため?




「はい…」


危ない。今「うん」て言いそうになった。




「ここに来たのはお前と話したかったからだ。お前がここに来てから数日経つがずっと話す機会なかったろ」


それは私が避けてたから。話すスキなんてなかったはず…




「とりあえずお前に言いたいことは、俺とお前が幼馴染みだってことは会社では内密にしろ」

「…」
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