音楽が聴こえる
「悟はあたしよりもちゃんと知ってた。……パパの病気」
「省吾さんとなかやん、よくつるんでたもんね。本当に仲の良い親子みたいだった」
テーブルに突っ伏したまま横目で見上げると、佐由美さんは昔の二人を思い浮かべているようだ。
あたしは不意に、夕べ悟と交わした会話を思い出し、佐由美さんに愚痴った。
「昨日も悟ったらパパにエロビデオの処分任されたとか、一緒にやらしい奴観たとか言ってんの。馬鹿じゃんって思ったけど。…………でもさ、パパったら全部、悟に押し付けて逝っちゃったんだよね」
「それって考え過ぎじゃない? 省吾さん、店の借金は自宅売って返済したんでしょ」
「詳細は教えてくれなかった。勝手にパパと悟で店の譲渡契約交わして、借金も総括して。それだってパパが退院した時、子供みたいに言い合ってるのに遭遇して知ったんだよ」
たまたま買い物から帰って来たあたしは、父の部屋の前でその話し声を聞いて立ち止まった。
店の今後についての話しみたいだったからだ。