音楽が聴こえる
そう、話しを切り出した時、あたしはまだシュウに背を向けていた。

だから、後ろから彼の腕がまるで包み込むような形であたしの体に回された時、咄嗟の反応が出来なかった。

「マアコ。俺に背中なんか見せちゃ駄目だよ。どんな格好してたって、俺にはマアコにしか見えない」

「……背中を見せるな、って敵に言う言葉じゃなかったっけ」

悟とは違う体温に違和感を感じ、身をよじってシュウの腕をほどいた。

「おふざけは止めてよ」

あたしは体を翻し、シュウの顔が見える位置まで、二、三歩ほど後退る。

シュウは外人みたいに肩を竦めて、苦笑した。

「ふざけてるつもりはないよ。マアコに会うのに三年かかった。本当は省吾さんが亡くなった時も行きたかったけど、悟に断られた」

「父の葬儀は……家族だけでするって約束してたから」

父は、派手なことはしてくれるなと、悟に釘を刺していたらしく。

あの時、誰を何処まで呼んだら良いのかすら、まともに考えられなかったあたしは、全てを悟に任せたんだっけ。


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