音楽が聴こえる
「そのうちに曲作っても、マアコだったら悟だったらなんて、要らないことまで考えるようになって……可笑しいだろ? 頭の中が真っ白なんだよ。何も浮かんでこないなんて」

シュウは苛立たしそうに、肩まで伸びた髪を掻き上げた。

「それって……俗に言うスランプってやつ?」

彼はコクリと頷く。

「多分。……俺、プレッシャーなんて感じるタイプの人間じゃない筈なんだ。こんなの俺じゃない……挙げ句の果てに体の調子までサイアク」

シュウはソファの上に膝を抱えて踞(うずくま)ってしまった。

あたしは途中から味の分らなくなったケーキを食べ終え、シュウと向き合う。

「シュウ」

こんな時何て言えば良いんだろうと思ったけど、上手い言葉を持ち合わせていないあたしは、彼の名前を呼ぶことしか出来ない。

項垂れてた頭を持ち上げたシュウの目には涙の膜が出来ていた。
それは儚げで、それでいて美しかった。

シュウはあたしの両手を掴んで、そっと囁く。
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