短編集
名前を書いていないのに、私が夢だとバレてしまった。
そのことに驚いてから、首を傾げた。
この男の子が好きなのは、きっと中1の春香ちゃん。
文字の雰囲気と合わせて考えると、多分11〜13歳くらいだと思う。
それくらいの年齢の男の子は、
団地に20人は住んでいた。
高1の私とは歳が離れているから、親しいと言える子はいない。
『お前、夢だろ?』
そんな風に言ってきそうな子を、一人も思い付かなかった。
この子が誰なのか分からないけど、少しだけムッとした。
年下なのに、勝手に呼び捨てして。
ピンクのチョークを手に取った。
生意気なメッセージの下に、返事を書く。
『こら!私の方が年上なんだから“夢さん”でしょう?
悔しいなぁ。君が誰だか分からないよ。教えて?』
書き終えると、満足してチョークを置いた。
また明日、ここに来てみよう。
君が誰なのか、とても知りたくなった。