短編集
◇◇
それから10日間、男の子と毎日メッセージをやり取りした。
連絡欄はすぐに埋まってしまい、
掃除当番表を消して、そこにも書き込んだ。
こんなに言葉を交わしても、男の子は正体を教えてくれない。
何号棟に住んでいたのかも、何年生かも教えてくれない。
私の質問には答えてくれないけど、彼は優しい男の子だった。
『新しい高校で友達はできたのか?』
とか、
『引っ越し先で困ることはないか?』
とか、年下のくせにお兄さんみたいな心配をしてくれる。
彼の優しい心配に答えている内に、何だか私のお悩み相談みたいになってきた。
『団地がなくなって、淋しくないか?』
そう聞かれたので、今日はこんな返事を書いた。
『淋しいよ。奈っちゃんとも花ちゃんとも、たまに電話で話すだけになっちゃった……。
でも一番淋しいのは、好きな人に会えないこと。
君の好きな人は春香ちゃんでしょ?知ってるよ。うふふ。
私は……3号棟の啓太くんが好きなんだ。内緒だよ?』