短編集
啓太くんが好き。
恥ずかしくて、仲良しの奈っちゃんにさえ秘密にしていた。
誰にも気付かれないよう、こっそり片思いしてきたのに、
どうしてかな……
彼には、すんなり打ち明けてしまった。
きっと、誰なのか分からないせいだろう。
たとえ随分年下の男の子でも、
何号棟の〇〇君だと分かってしまえば、言えなかったかも知れない。
分からない相手と会話するのは、不思議な気分。
彼が誰なのか、知りたい気持ちは今もあるけど、
知らない方が恥ずかしがらずに何でも話せて、いいのかも……
そんな気もしていた。
◇◇
翌日は昼過ぎから雨。
白いセーラー服に泥はねしないよう、気をつけて団地の中を歩いていた。
傘を畳み2号棟に入ると、いつもと違う点にすぐに気付いた。
コンクリートの床が濡れていた。
スニーカーのような靴跡が、階段の上に向け点々と続いていた。