冷たい上司の温め方

「あぁ、どうしましょう。病院に……」

「いえいえ、このくらいなんでもないですから」


こんな擦過傷くらいで病院なんて、かえって恥ずかしい。


ポケットに忍ばせておいたハンカチで、とりあえず一番出血していた膝頭を押さえて、あまりに恐縮しているお母さんに笑顔を作る。


「本当に気にしないでください。
それより、ほら、お子さんもちょっと怪我されてますよ」


男の子の肘付近にかすり傷を見つけた私は、落としたバッグを拾い上げ、頭を下げてからその場をダッシュで離れた。

だって……すごい数の野次馬が集まってきて、恥ずかしくて。


「あっ、あのーっ」


お母さんが声を張り上げるのがわかったけれど、「大丈夫です」と一言だけ返して、足を速めた。



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