冷たい上司の温め方
擦過傷っていうのは、思ったより痛いらしい。
こんな傷、小学生みたいだ。
それより、もう時間がない。
時計を見ると指定の時間までもう三分だった。
だけど、こんな恰好で?
一瞬ためらったけれど、今はどうすることもできない。
とりあえず行かないことには、受からない。
膝にハンカチをギュっと縛って、走りだした。
「キャ!」
それなのに、ほんの数メートル足を進めたたところで、突然現れた男の人に体当たりしてしまった。
なんて日なの?
勝負の日なのに。
「お前、野球部?」
「はっ?」
「見事なスライディングだな」
「えっ?」
「イヤ、こっちの話」
一瞬ニヤッと笑ったその人は、尻餅をついた私に手を差し伸べた。
なんだかよくわからないまま差し出された手を取ると、その人は華奢な体からは想像できない強さで私を引っ張り上げる。