冷たい上司の温め方

擦過傷っていうのは、思ったより痛いらしい。
こんな傷、小学生みたいだ。

それより、もう時間がない。
時計を見ると指定の時間までもう三分だった。


だけど、こんな恰好で?

一瞬ためらったけれど、今はどうすることもできない。
とりあえず行かないことには、受からない。

膝にハンカチをギュっと縛って、走りだした。


「キャ!」


それなのに、ほんの数メートル足を進めたたところで、突然現れた男の人に体当たりしてしまった。

なんて日なの? 
勝負の日なのに。


「お前、野球部?」

「はっ?」

「見事なスライディングだな」

「えっ?」

「イヤ、こっちの話」


一瞬ニヤッと笑ったその人は、尻餅をついた私に手を差し伸べた。

なんだかよくわからないまま差し出された手を取ると、その人は華奢な体からは想像できない強さで私を引っ張り上げる。

< 13 / 457 >

この作品をシェア

pagetop