冷たい上司の温め方

私を無理やり引っ張ったその男は、大通りでタクシーを停めた。


「乗れ」

「はっ、人さらい?」

「まったく、なに言ってるんだ。
お前を誘拐したら、ザクザク身代金が出てくるようには見えないが?」


いちいち正当な意見だ。


「とりあえず、その身なりをなんとかしてやる」

「だから、私、これから面接なんです。時間がないんです」

「そんな恰好じゃ、行ったって受からないだろ。俺が紹介してやる」


紹介……。
なんとおいしそうな言葉。


だけど……新手の詐欺かもしれない。
ただのエロ男かもしれない……。

頭の中をいろんな想いが駆け巡って、しばし立ち尽くす。


「わっ」


葛藤する私を、銀縁メガネが無理矢理タクシーに押し込む。


「頭悪そうだな、お前」
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