冷たい上司の温め方
楠さんは入り口を見つめたまま微動だにしない。
妙な緊張感の中、ドアがノックされた。
「どうぞ」
いよいよ、リストラ面接が始まる。
私は緊張のあまり、ギュッと手を握った。
「失礼します」
加納営業部長は、五十五歳だという。
髪は白髪交じりで、少し疲れたような顔。
「お呼び立てしてすみません。人事三課の楠です」
「今日は、一体なにを?」
三課に呼び出されることがどういうことなのか、よくわかっているのだろう。
苦い顔をした部長は、楠さんに勧められて椅子に座った。
「はい。まず最近の勤務状況についてです」
「あぁ、すみません。体調が悪くてですね。
もうこの歳になるとガタも来るんですよ」
「そうですか」
素っ気ない楠さんの返事に、加納部長は眉をひそめた。