冷たい上司の温め方
思いのほか、楽しい時間だった。
「さて、そろそろ帰るか」
ウーロン茶をテーブルに置いた楠さんの掛け声で、私達は店を出た。
大通りでタクシーを拾うと、三人で乗りあわせる。
「笹川の家からだな」
「あっ、麻田さんからで……」
気を使ってもらったけど、ここからだと笹川さんの家が一番近いようだ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
笹川さんは楽しそうな笑顔で帰って行った。
そして次は……楠さんの家が近い。
「麻田、住所言え」
「あー、ここだと楠さんの家の方が近いです」
私の家に行くと、戻ってこないといけない。
「あのなぁ。お前はモテなくても一応女なんだ」
『モテなくても』は余計だけど、気を遣ってもらえているようだ。
「ありがとうございます。"一応女"なんで、ありがたく」