冷たい上司の温め方
「山際」
「はい。なんでしょう?」
「人事の仕事は、嘘を広めることではない」
楠さんの冷たい言葉に彼女は一瞬ひるんだ。
でも、すぐに彼女は、「もちろんです」と満面の笑みだ。
こういうのを、裏表があると言うのだろう。
だけど、彼女の変身ぶりに、私はもうどうでも良くなった。
私の価値は、この人の言葉くらいで左右されないと思えたからだ。
「楠さん、仕事しましょう。異動願いの調査の件ですが……」
「あぁ、どれくらい集まってる?」
私は仕事に没頭することにした。
営業部の飯田さんの面接は、数日後に二回目が行われた。
約束の時間になっても飯田さんは現れず、営業部に用があるフリをして所在を確かめに行くと、まだ外回りから帰っていなかった。