冷たい上司の温め方
「そうですか。それは、お疲れ様でした」
楠さんがねぎらいの言葉をかけると、飯田さんは突然椅子から立ち上がって深く頭を下げる。
なにが起こっているの?
「これで今期のターゲットを達成しました。
前回、リストラの話を聞いてから、よく考えました。
どこか慢心していました。
新人の頃の我武者羅に頑張ろうという気持ちがいつの間にか消え、ただなんとなく営業をしているような姿勢さえ見せていればいいと。
それでも、給料は入ってきましたから」
顔を上げた飯田さんは、真剣な顔で話を続ける。
「ですが、やはり私には守るべき家族があります。
ここで仕事を失う訳にはいきません。
今更、転職というのも厳しい」
飯田さんの言う通りだ。
新卒の私も就職活動には困難を極めた。
飯田さんくらいの歳になると、それなりの役職がついている場合を除いて、次の職に簡単にありつけるとは思えない。