冷たい上司の温め方

それからは、互いの学生時代の話で盛り上がった。


「へぇ、女子ってそんなに就活厳しかったんだ」

「そうですよ。とくに私みたいな文系女子は大変だったんです。
どれだけ資料請求したか。でも資料さえもらえないんですよ」


ビールがすすんで少し顔が赤くなった笹川さんは、緩めていたネクタイを外した。


「どうやって楠さんと会ったの?」

「えっ?」


突然真顔になった笹川さんは、食べる手を止め、私を真っ直ぐに見つめる。


「楠さんとは……偶然です。
たまたま他の会社の面接に行く途中に出会って……」

「それで見ず知らずの学生をスカウトしたの?」

「いえ、あの……その時に……」


どうやって説明したらいいのだろう。


『他の人間のことを考えて、動けるやつ』と私を評価してくれた楠さんとのことを、説明しても理解してもらえない気がする。

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