冷たい上司の温め方
「楠さんの一目惚れってとこか」
「違います!」
思わず大きな声がでた。
楠さんはそんなにいい加減な人ではない。
そんなことで私を採用したりしない。
「もしかして、麻田さんも楠さんのことが好きなの?」
「違います」
笹川さん、酔ってるの?
いつもの彼とは違う。
周りを見渡す余裕があって、発言の前にはその言葉がもたらす影響について、きちんと考えられるような人なのに。
「それなら、俺と付き合ってよ」
「笹川さん、酔ってますよ? もう帰りましょう」
今日はこれ以上、ふたりで話していたくない。
笹川さんには“悪いお酒”だったようだ。
私が立ち上がると、手にしていた伝票を奪っていった笹川さんは、入り口で会計を済ませる。
「あの……」
「これくらい、おごらせてくれ」
「ありがとう、ございます」