冷たい上司の温め方
「俺はこの会社を辞めることになるだろう」
手の力を緩め、真っ直ぐに私を見つめる彼は、やはり退職覚悟なのだ。
「それでも、許せなかった」
私は小さく頷いた。
彼のその正義感が好きなのだ。
これからどうなろうが、正しいことは正しいと言いたい。
「楠さん……いつもひとりでかっこつけるんだもん。
助さんや格さんにも活躍させてよ」
「だから、なに言ってんだ?」
フッと笑いをもらした彼だけど、もちろんそれが笹川さんと私だとわかっているはずだ。
「お前達ふたりには、ここで踏ん張ってほしい」
「それはイヤです。
理不尽なことには理不尽と言えと言ったのは楠さんです。
笹川さんがきっと今、楠さんをここに残してほしいと言ってくれてます。
私も、もちろん言います」
彼は苦笑した。