冷たい上司の温め方
「楠さん!」
慌てて楠さんに駆け寄ると、彼はずれたメガネを外して私に差しだし、立ち上がった。
「これは嘘をつかれた怒り。それと……」
抵抗しようとしない楠さんを、笹川さんの拳が再びとらえる。
「やめて! やめてください」
再び倒れ込んだ楠さんの前に立ちはだかって懇願すると、笹川さんは肩の力を抜いた。
「それと……もう一発は、麻田さんを危険な目にあわせた罰です」
「笹川さん……」
笹川さんの目からは、もう怒りは消えていた。
笹川さんは自分が殴ったばかりの楠さんに近寄ると、手を差し伸べる。
すると楠さんは、その手を握り立ち上がった。
「きいたよ」
思いきり殴られたというのに、楠さんはニヤリと笑う。
「それで、麻田さんのことは?」
「俺が幸せにする」
「腹立たしい」
そう言いながらも笹川さんは笑っている。