冷たい上司の温め方

「どうしても楠さんには敵わないですね、俺」


小さな溜息をついた笹川さんは、今度は私の方を向いて口を開く。


「勝手に決めたけど、麻田さんはそれでいい?」

「えっ?」


勝手に決めたって?


「ダメだとは言わせない」


今度は楠さんが私に歩み寄り、腕を引いた。

なに? 
混乱する私をよそに、ふたりは勝手に会話を進める。

つまり……私が楠さんと付き合うと、ふたりで決めたということでいいの?


「笹川さん、あの……」


私のことをいつも考えていてくれて、私のために尊敬する上司を殴って……。
本当に素敵な人だけど、やっぱり私は笹川さんの手を取ることはできない。


「謝らないでね。惨めだから。今度女の子紹介してよ。
それじゃ、俺は帰ります」
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