冷たい上司の温め方
笹川さんがあげてみせた右手がほんのり赤くなっている。
本気で殴ったんだ……。
笹川さんの男らしい後姿を見送ると、ハッとする。
「楠さん! 大丈夫、ですか?」
「あいつ、本気で殴りやがった」
口元の出血を手で拭いながら、私が持っていたメガネを奪ってかけた。
だけど、本気で殴ったのは、きっと笹川さんの優しさだ。
私と楠さんが新しい一歩を踏み出すためにそうしてくれた気がする。
「美帆乃」
赤くなった左頬が痛々しい。
「お前を巻きこんで、すまなかった」
「ううん……」
私だってあなたと同じ気持ちだったから。
悪いことは悪いと言いたい。
「俺……親父と同じ過ちはしたくない。
好きな女は自分の手で幸せにしたい」
彼は私を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。