冷たい上司の温め方
楠さんは、昨日までとまったく変わらない落ち着いた様子で足を進める。
だけど、人事のドアの前に立つと、一度ネクタイを締め直し、メガネのフレームに触れた。
珍しく、緊張してる?
楠さんは一瞬、笹川さんと私に視線を送り、ドアを開ける。
「おはようございます」
楠さんに続いて私達もフロアに足を踏み入れる。
すると、すでに出社していた人事部全員の視線が刺さった。
当然かもしれない。
騒動の張本人なのだから。
もしかしたら、これが最後の出社かもしれない。
楠さんがここを去るなら、私もそうしようと思っていたから。
そして、こうして一緒にフロアに入る笹川さんも、同じ気持ちかもしれない。
「楠」
すぐに部長に呼ばれた楠さんは、部長のデスクまで足を進める。
私と笹川さんは三課のデスクの辺りで、その様子を眺めていた。